建て替え紛争の噴火口

2011.11.18

裁判の経過がどうであれ、新千里桜ヶ丘の建て替え決議は湖面に石を投じたように波紋を広げていった。地元の不動産取引業者は、中古マンションを探しにきた客に耳打ちする。「古い団地は、いまが買いどきやね。大手のデベロッパーとスーパーゼネコンが入って新築するから、値段はドーンとに下がりまっせ。買っておいて損はないです。次の狙い目はね、吹田の桃山台第二団地や。駅に近いし、あれだけまとまった敷地は千里でも珍しい。きっと建て替えられます。

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間違いない。ええ投資やと思いますよ」「儲け話」は口づてに拡がった。この時期、桃山台第二団地には、値上がり益を期待する者が続々と入ってきた。そのなかから建て替えにむけた実働部隊が結成されていく。投機じみた住戸売買が行なわれる一方で、子育てを終えた世帯は団地から次々と去った。Sさん家の食堂で、Yさんが窓越しにナンキンハゼの本を眺めながら、Aさんに語りかける。「知ってる顔が少なくなっていく。寂しいね」「仕方ないよ。どこに住もうが、その人の自由や。馴染みの人がおらんようになると、余計な波風も立ちそうやね。でも、いくら建物が古いといっても、まだ十分使える。不安なら、劣化診断をすればいい。人間であれ、建物であれ、与えられた寿命を縮めたらいかんよ」とAさんは応えた。団地を「終の棲家」にしたい、と願って暮らす区分所有者が減った。外に住む所有者の割合は、じつに四五%に達する。同じ区分所有者でも、団地で暮らす人と、外に住んで住戸を賃貸する人では意識が異なる。外住者は、新築すれば賃料をアップできるし、高値での転売も見込める。工事中の仮住まいの負担もない。だから建て替えに積極的だ。そこに販売価洛の上昇を狙って、安い住戸を買って転入してくる者が加わる。かれらの欲望はマグマのように燃えながら集団を形成する。かたや団地で暮らし続けたい人は、自己負担なしと言われても、仮住まい家賃や引っ越し代は自前となる。どんな住戸に戻れるかは予想がつかない。高齢者にとって急激な環境変化は大きな負担だ。建て替えのメリットは少なく、「ノー」を突きつける。ひとことで区分所有者といっても、そこに住み続けたい人と値上がり益を期待する人では感覚がまるで違う。ここに建て替え紛争の噴火口がある。




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